農薬問題からフェアトレードを考える

(ナマケモノMLから一部抜粋)

 

私は、25年ほど前に農村で7年ほど暮らしましたが、百姓になろうとしてなれなかった者です。農薬の話を少ししたいと思います。

ご存知だと思いますが、世界で最も農薬が多量に使われている作物が綿花で、2番目に多いのがコーヒーです。おそらく、この二つの作物が無農薬で生産されたら、世界の農薬使用量は3分の2に減少するはずです。それほどにこの2つには、多量の農薬が使用されています。

現在、世界では「発展途上国」といわれている国を中心に、年間500万人が農薬によって死亡しているとFAO(国連食料農業機関)が推定しています。また、農薬は神経をおかしくするため、人間の精神面にも悪い影響を与えているといわれています。

20代のころ、百姓になれなかった私は、有機農業を広めるために、生産者と消費者との提携運動に取り組んできました。そして、チェルノブイリ原発事故によって放射能で汚染された農産物が「途上国」にまわったことを知ったのがきっかけとなって、「途上国」の生産者と提携するようになりました。

16年前にブラジルを初めて訪れて無農薬栽培のコーヒーを探しまわったときどの農場に行っても「農薬なしにコーヒーができるはずないじゃないか!」と言われました。しかし今では、おそらく数千の農場が無農薬でコーヒーを栽培するようになっています。そして、コーヒーに限らずあらゆる作物が有機農法で栽培されるようになってきました。また、インタグコーヒーのように森を守るためのアグロフォレストリー(森林農法)が広がることがとても重要なので、今年の6月にアグロフォレストリーの専門家と生産者を南米から招いて、国際フォーラムを開催する予定です。できれば、今年か来年からオーガニックコットンをフェアトレードで輸入することで綿花栽培の農薬使用を減らす運動にも参加したいと考えています。人間が生きていく上で、農薬に汚染されていない環境や食べ物や飲み物が必要だと思います。そのために農薬に依存しない農法の普及が必要だと思います。「いのちを大切にしない」武器輸出と「いのちを大切にする」有機コーヒーのフェアトレードは、正反対のことだと私は考えています。フェアトレードというのは、正しいとか立派とかというようなものではなく、南北問題の現状があまりにひどいので、その現状を伝えることと、少しでも「ましな方向」に向かうための一つのやり方だと思います。

「何でわざわざ地球の裏側から多くのエネルギーを使ってコーヒーを輸入しているのか」

この問いに関連することを ゆっくり堂http://www.yukkurido.com/index02.htmlから出版した『スロービジネス』の中で辻信一さんと対談していますので読んでみて下さい。

 

(辻)中村さんに会って、ぼくは変わったビジネスマンがいるなあと思ったんですが、そのひとつに、ビジネスそのものと同じくらい熱心に、チェルノブイリの被害者支援運動をやっているということがありました。

中村さんの会社を訪ねてみると、コーヒーの焙煎をやっている人のすぐ横に、チェルノブイリの支援物資を送る作業をしている人たちがいる。やはりチェルノブイリの原発事故というのが、中村さんの大きな人生の転換点になっているような気がします。

 

(中村)私が生協を辞めて自分の仕事をはじめようと思ったきっかけも、今考えてみればチェルノブイリなんです。 あれは1986年の4月26日でした。放射能が地球上のあちこちを汚染するような事故になった。その前から私は、原発は人類と共存できないと思っていたので、早く脱原発の道を探さなければならないと思っていたんですが、実際に原発事故が起こって、その放射能が8000キロも離れた日本に来ただけでなくお母さんたちの母乳からも放射能が検出されたことに衝撃を受けました。

放射能というのは、細胞分裂が活発なほど影響を受けるので、大人よりも子ども、子どもよりも幼児、幼児よりも乳児というふうに、年齢が低いほど被害を受けやすいんです。母乳しか飲めない赤ん坊にとって、その母乳から放射能が検出されたということは、究極的な問題ですよね。

また、放射能汚染食品のことにもゆさぶられました。チェルノブイリに近いヨーロッパの農産物が特に汚染がひどかったんですが、その汚染食品が日本にも輸入されていたんです。それに対して日本政府は、一定の汚染値以上は輸入しないことにした。当時の言い方で370ベクレル。私のいた生協はその数値の37分の1にあたる10ベクレルという厳しい数値を決めて、それ以上汚染した食品は生協で販売しないことにした。

子どもたちの健康を大事にするお母さんたちがつくった生協ですから当然です。汚染食品を子どもたちに食べさせたくないという気持ちは間違っていないと思います。しかし、そこにひとつ気になることがあったんです。日本が今まで輸入していたものをいらないと拒否したわけで、その拒否されたものはどうなったのか。調べてみたら、それが「発展途上国」にまわっていた。もともと日本という国は、国内でもっとたくさん食料をつくれるのにつくらないで、半分以上も輸入している。そして、外国から大量に輸入しておきながら、その多くを残飯や賞味期限切れで捨てている。だいたい1日に1食分。年間で約1000万トンを捨てている計算です。これは、日本の米の生産量に匹敵する。そういうことをしている日本が、放射能汚染食品を拒否して、それが途上国の人たちにまわってる。そこの子どもたちがさらに健康を害するようなことを我々が間接的にやってしまっている。

 

(辻)チェルノブイリの事故を通じて、結局、南北問題を目の前に突きつけられるかっこうになったわけですね。

 

(中村)そうです。それを知ってしまったことで、今まで通り国内だけでやっていくことに居心地の悪さを感じるようになったんです。地場生産、地場消費、地域の中でできる旬のものを食べましょう、それを広めましょうということ自体は間違っていない。しかし同時に、私たちは巨大な格差をもつ世界に生きていて、私たちの暮らしが途上国の人々の犠牲の上に成り立っているということもまた事実です。自分の仕事として、もっと途上国とつながることもやりたい、と思いました。

(中略)

⦅*フェアトレードについて⦆

アンフェアな状況がたくさん起こっている大きな要因として、国内で言えば補助金制度、国際的に言えば援助(ODA)の問題があります。ODAは、数年前にアメリカが1位で日本が2位になったんですが、それまで日本はずっと世界一の援助大国って言われていました。

日本はいいことをやっていると多くの日本人は思ってますけど、その実態を見てみると、日本の援助は有償援助、つまりお金を貸すという援助が約半分です。これは金利をつけて返さなければいけないわけです。

援助のお金を何に使うかというと、飛行場作ったり、道路作ったり、ダム作ったり、非常にお金がかかることに使うんです。しかもそれらは、現地の人たちが必ずしも望んでいることではない事業です。そして、その工事の大半を日本企業が請け負っている。そうやって、日本が援助したお金が日本に帰ってくる仕組みになっている。

そんなふうにして、現地の人に必要じゃないものができる。例えば、多くの村を水没させてダムが出来る。そのダムは数年したら土砂がたまって使えない。しかし途上国は、そのお金を返済しなければならない。本来ならその国の医療費だとか教育費だとか食料の増産のために使うべきお金を削って日本に返済することになる。

それでもお金が足りないと、自然破壊型の鉱山開発とか森林伐採などで短期間に外貨を稼ごうとするわけですよね。この20数年で、途上国の対外債務は20数倍に膨れあがっているんですが、金利というのはほんとに恐ろしいものです。この前、エクアドルの人に聞いたら、対外債務の金利が12だっていうんです。びっくりしました。12%も利子がついたら絶対返せないですよ。そんなことやっていて、援助もくそもない。途上国の環境破壊と医療、教育などの問題の大半は、このように先進国の側にある。中でも日本は有償援助が世界一多いのですから、責任は重大です。国家予算の半分を借金の返済にあてて、それでも借金が増えているなどというアンフェアな状況を、実は私たちの国が作り出しているわけですから。それが環境破壊を引き起こし、貧富の差をさらに広げている。

フェアトレードをやる意味というのは、ただ単にフェアトレード商品が売れればいいということではないでしょう。お金というシステムがどんな風に世界を支配し、さまざまな深刻な問題を生み出しているのかといったことを伝えることもフェアトレードの重要な役割だと思うんです。