昆布は、ヒネ物が旨い

「天然物の昆布の出来たては、まだまだ繊維が硬いので、ダシが出にくいんですよ。

例えば、天然の利尻昆布ですが、この昆布が持っている旨味を100とすると、新物は、そうですね60くらいしかダシが出ません。

でも、1年間寝かせると、繊維が柔らかくなって、100%昆布の旨味を引き出せるんですよ。

だから、ヒネ物しか使わないお料理屋さんも、少なからずいますよ。」

と、昆布屋さんは異口同音におっしゃいます。

ちなみにヒネ物とは1年間寝かせた物。2年寝かせると大ビネになります。

数年前、某昆布屋さんが新宿の伊勢丹さんの地下で、行き交うお客様に、新物とヒネ物の味比べをしていただいたそうです。すると、殆どのお客様に新とヒネの味の違いを分かっていただけたとか。

(以上、昆布の仕入れ先からのお話でした)

 にんぽう倶楽部では、毎年11月に冬島産の「日高昆布」を原反(105㎝20㎏)にて仕入れます。

 そしてそのまま半年ほど置き、前の在庫が切れたら、順次、短く切って袋詰めしています。

 「にんぽう倶楽部の昆布はどうしてこんなに美味しいの?」とよく聞かれます。

 決して最高級の昆布を仕入れているわけではありません。

 条件は、「天然」「自然乾燥」「浜辺で除草剤を使った場所に干さない」 これだけです。

 でも、この条件に合うものがビックリするほど少ないんです。

 同じ天然であれば、形の揃ったものと揃っていないものでは、揃ったものの方がまろやかです。

 でも価格は倍以上になってしまう。

 (不揃いのものでも、上の条件に合うものとなると、すごく高いんですよ。)

 そこで、にんぽう倶楽部では、不揃いのものを仕入れて、少なくとも半年以上置いて、熟成させて、高いものに負けないどころか、それ以上に美味しい昆布にしているのです。

 でも、これって、結構きついんですよ。

 仕入れは現金。

販売は、少なくとも半年以上先から・・・ その後1年以上かけて販売するわけです。

 仕入れてから、現金収入になるまでに2年くらいかかるのですから。

 昆布業者さんでさえ、資金繰りの関係で、じっくり熟成させる期間を持たせることはほとんどありません。

 それどころか、「新物・初物」で売り込み、できるだけ早く現金化することを目指します。

 でもでも・・・ 自然のものを自然の状態で熟成させ、最もおいしい状態で食べる。

 これが、本来あるべき食の姿だと思うのです。

 苦しいけれど、可能な限り、この方法を続けていきたいと思います。

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  2001年産、2002年産、2003年産、2004年産、2005年産(ここまでは顧客様にいただいた昆布)、2006年産(昨年弊店が仕入れた昆布)、2007年産(出来たてのホヤホヤの昆布)の天然利尻昆布、ついでに、2006年産の羅臼昆布があったので、全部で8種類、それぞれ水に漬け、一日半かけてダシをとりました。

まずは色比べ。利尻昆布7種類をグラスに入れ眺めます。濃い順に、2005年、2001年、2002年、2004年、2003年、2006年、2007年となりました。もっとも天然の昆布ですから個体差があるので、色の違いは寝かせた時間だけに因るものであるとは言い難いのですが、なるほど、色が年によって違います。

さて、肝心の味比べです。最初に2007年(新物)を口にふくむと、利尻昆布らしい甘い味がしました。次に、2006年(ヒネ物)を口に入れた瞬間、本当に驚いた。ビックリするほど味が濃いのであります。慌てて2007年を、もう一度、口にふくむと、今度はやけに水っぽく感じます。おまけに磯臭いというか植物臭いというか、違和感のある香りが口の中に残ります。比べたからこそハッキリと分かったのだと思います。まさしくこれが、新物とヒネ物の味の違いです。誰が何と云っても、ヒネ物の方が数倍甘いダシになっている。

ここで大ビネ(2005年産)のダシを口に入れると、また違う味。確かに甘い昆布ダシなのですが、スッキリしていて実にまろやかなんです。ヒネ物は、昆布ファンなら泣いて喜びそうな、実に濃厚な甘いダシですが、ある意味、攻撃的な味。昆布が苦手な私には、ちょっとキツイのであります。一方の大ビネ、きちんと昆布の甘みはするのですが、味が柔らかいので、私の喉もすーっと通ってしまう。このダシなら、私も好きになれそうです。本当の昆布ダシの旨さを生まれて初めて経験したと云っても過言ではありません。その後、2004年、2003年、2002年、2001年と順番に味見をしたのですが、私の味覚がそれほど鋭敏でないせいか、正直な話、大ビネ(2005年産)のダシと大差ありませんでした。

「百聞は一見に如かず」とは云いますが、今回、生まれて初めて、新物、ヒネ物、大ビネの味比べをしたところ、予想以上に味の違いを感じる事ができました。食べ物の場合は、まさに「百聞は一食に如かず」。お陰様で、昆布の旨さを再発見することができました。新物の昆布だって、それはそれで、昆布の味がして旨いのですが、比べてしまうと、ヒネ物の方が、断然しっかりとしたダシになっていました。

そして、一番旨かったのは大ビネ。鰹節に例えると、ヒネ物は荒節のように濃厚な風味がするのですが、大ビネはまさに本枯節。雑味がないので実にスッキリとした甘いダシの味がしました。この大ビネの昆布と本枯節で赤だしを作ったら、これが旨いのなんの・・・昆布と鰹節の真の相乗効果を生まれて初めて舌で感じたのであります。

実験終了後、残っていた羅臼のヒネ物を味見したんですが・・・驚愕の味の濃さ。「これでもかっ」て云うくらい昆布の味がしたのであります。昆布の味が大好きな方には、やっぱり羅臼昆布が「昆布の王様」に違いない、と心の底から納得した瞬間でした。

築地仲卸

伏高

三代目店主