インタグの鉱山開発の今 

インタグの鉱山開発の今

<これまでのおさらい>インタグは、このエクアドルの北西部に位置するインバブラ県コタカチ郡のインタグ地方は、アンデス山脈の熱帯地域の一部であり、世界で最も生態的多様性に優れている地域です。このインタグ地方の面積は約1,680㎞²、人口は 約17,000人、標高500mから2,700mの地域に点在するコミュニティーの数は70ほど。この地方の農民たちは、ほとんどがコロンビアや国内でも他の地域から移住してきた人々で、豆、とうもろこし、サトウキビ、トマテ・デ・アルボル(ツリー・トマト)、そしてコーヒーなどを育てながら、細々と暮らしてきました。この山間にコミュニティーが点在している。学校へ行く子どもたち。片道一時間。
この広いながらも小ぢんまりとした地方は、首都のキトから北へ車で5時間ほど、エクアドル・アンデスの西側山麓に位置します。その山間に入ると、がたがたの整備されていない(今後アスファルトが敷かれる予定で、今道路幅を広げている段階)道とともに、目の前には広大な森林が広ってきます。夕方には雲と霧が立ち込め、雲霧林と言われる森林が姿を現します。その森は、この地方は、コロンビアの海岸からエクアドルの真ん中を通り、海岸へ抜けるチョコ・マナビ生命地域「緑の回廊」に属し、そしてコタカチ・カヤパス生態系保護区という国が制定する保護区に隣接しています。さらに、地球上に存在する25箇所の環境ホットスポット(地球の陸地1.4%にしか過ぎないが、地球の全植物の44%、脊椎動物の35%がこの中に存在している)のうちの2つ(熱帯アンデス・ホットスポットとチョコ・ダリアン-西部エクアドル・ホットスポット)を有しています。原生林の中に現れた大きな滝。森を散策中、見上げたら。フニン村の保護区内の滝。

オニオオハシの一種。

幻想的な雲霧林。

それほど生態学的多様性に優れ、貴重な雲霧林、清泉が未だ残っている地域なのです。その手つかずの自然には、銅やモリブデンなどの資源が埋まっています。

エクアドルの主な収入源は、鉱工業(石油)、農業(バナナ、カカオ、生花)、水産業(えび)などですが、その輸出額の4割ほどを占める石油はあと10年分しかないと言われています。故に、コレア大統領は確立していない鉱山開発を収入のターゲットとして視野に入れています。(現時点での銅の産出量は年100万トン)インタグには、約31,800万トンの銅の原鉱があるとみられています。濃度は0.7%。つまりインタグには、純粋な銅が、226万トン以上あるということになります。しかしこれは、日本が年間消費する120万トンの倍ほどにしかなりません。アメリカならば、年間230万トン、中国ならば、年間300万トン消費していますが、つまりこれらの国々の1年間分にも満たない量なのです。それでも、エクアドルという国にとっては、手っ取り早い収入源となりうるわけです。

しかしその影響は、多岐にわたります。大規模な森林伐採(多くは原生林)、地域の天候の変化、および砂漠化、絶滅危惧種の動物(ジャガー、ピューマ、アンデスメガネグマ、ホエザル、オニ・オオハシなど少なくとも18種類)への悪影響、廃棄物による基準値の100倍を超えるリード、カドミウム、クロム、銅および硝酸塩による土壌・水質汚染(電池酸よりも高い酸度になる)、土壌流出、大気汚染など枚挙に暇がありません。

日本政府/JICAによる探鉱が行われようとしましたが、それに住民のストップがかかりました。その後、 2004年にインタグに現れたアセンダント・コッパー(現コッパー・メサ)は、非人道的なありとあらゆる手を使って、鉱山開発をすすめようとしました。特に2006年の武装集団による突入は、人権侵害どころの話ではありませんでした。

道路にあけられた穴を石で埋めているところ。

石を投げつけていた鉱山開発賛成派

しかし住民は国内外の世論へ訴え、2009年にはアセンダントをカナダにて人権蹂躙で法的に訴え、最終的に、2010年にトロントの証券取引所は、上場廃止を決定しました。つまり実質的に、アセンダントは、資金を調達することが不可能になったということです。現在、アセンダントは、7500万ドルの損害賠償をエクアドル政府に請求しています。エクアドル側はスイス人の弁護士を二名雇い、インタグの鉱山開発反対派の中心人物であるカルロス・ソリージャさんは、9月にワシントンで行われる重要証人として、招聘されています。これはつまり、エクアドル政府としては、アセンダント・コパーとインタグの鉱山開発をあきらめたということになります。

<今>

アセンダント・コパーとの開発はあきらめた(ように見える)ものの、上記したように、外貨獲得のために鉱山開発を進めたいコレア大統領は「市民革命」の名の下に、国内の主要道路のアスファルト舗装、修復、車線増加工事を大々的に行っています。これは、一見市民のためのように思えますが、これは大々的な鉱山開発の準備とも見られています。またこうしたインフラ(道路の他、家や生活保護の充実など)を整えることによって、市民に物質的な満足感を与え、市民がそれまで培ってきた自ら考え取り組む姿勢を崩す結果となり、市民主導の運動が鈍くなっているように見受けられます。さらに、多くの国内外のNGOが組織の更新をすることができず、国内の団体は解散、国外の団体は国外撤去となり、コレア大統領の「反対勢力」がどんどんつぶされている状態です。

現在、チリの銅開発公社のCODELCO(Corporación Nacional del Cobre de Chile)が、インタグの鉱山開発を進めようとしています。CODELCOは、チリの国営鉱山開発企業であり、チリ最大の企業で、世界最大級の銅の企業です。2011年度には、1億7900万トンの銅を生産し、精製しました。これは世界の銅の10%に相当します。

この公社は、2008年から2011年に至るまで、300万ドルもエクアドルにおける探鉱に費やしてきました。そして2011年、エクアドルの非再生可能自然資源省の下のエクアドル鉱山開発公社のENAMI(Empresa Nacional de Minería del Ecuador)と、2009年の探鉱協定の継続を正式に合意に至りました。この合意により、今後四年間、探鉱の結果次第で、CODELCOは1000〜3000万ドルの投資をすることが可能になりました。

このCODELCOとENAMIが目をつけたのが、インタグのLlurimagua(ジュリマグア)地区です。ここは、アセンダントが取得した採掘権、Golden 1、Golden 2、Magdalena 1の一部が含まれます。つまり、フニン村を含み、チャルワヤク・バホ、チャルワヤク・アルトのギリギリのところまでがその範囲となります。2012年の8月に、ENAMIはインタグの複数の町で、説明会を行っていますが、住民の反対意見に押され、現在に至るまで、住民からの賛成を得られていません。

しかし賛成派に押し切られてはいないものの、アセンダントが撤退して以来、「平和ぼけ」してしまっているインタグの住民たちに絶えず、インタグの森の重要さ、水の大切さ、鉱山開発は決して持続可能ではないことなどを訴えていかなければなりません。これは、非常に地味で根気のいる仕事です。目の前のお金に惑わされず、持続可能な道を選ぼう。これは言葉にすることはとても簡単ですが、インタグのように、物質的には「貧しい」といわれている地域においてはとても難しいことです。お金がないために、都会に出て働かなければならなかった。お金がないために、子どもを学校にやれなかった。お金がないために、医療費を捻出できなかった。そういう切羽詰まった状況を経験した人たちに、「お金よりも自然を守ろう」と訴え続けるのは並大抵のことではありません。そういう状況でなかったとしても、物質主義のピークのようなものを経験していない国の人々は、その怖さのようなものを肌で感じることはできません。そういうときにこそ、やはり外部からの応援が必要になると思います。環境教育やキャンペーンへの寄付も重要ですが、このような背景を知って、コーヒーや、カブヤ(サイザル麻)の手工芸品をフェアトレードの価格で購入することや、エコ・コミュニティーツーリズムで現地を訪れること、そんな顔の見える経済をこちら側も楽しみながら参加して、支援していくこともとても大事だと思います。それは彼らの現金収入になるほか、自分たちの住んでいる場所の素晴らしさや活動が他の国の人々に認められたんだという、誇りに結びつきます。

地域の素材を使った、環境にやさしい手工芸品のカブヤ。

 

様々な木々を一緒に植えられたコーヒー。